ボブ・ディランについて書いてみたい④ アナザーサイド-2
1 マイ バック ペイジ
ディランは、「風に吹かれて」を21歳で書いたが、元々、フォークソングやプロテストソングといった小さな枠にはまるようなアーティストではなかった。あの革新的なロック、「ライク・ア・ローリングストーン」はすでに23歳にして書かれているから、わずか2年ほどでフォークソングは卒業している。まあ、卒業というよりは単なる通過点に過ぎなかったということであろう。現在でも、日本のファンの多くの人が、「風に吹かれて」や「時代は変わる」のフォークソングのイメージから、抜け出していない。日本でいえば、古いスピッツファンが「チェリー」や「ロビンソン」から抜け出していないのとよく似ている。
そういった、古い枠や殻を脱皮できない人たちに対して、ディランは自らの反省も込めて「My Back Page」を書いた。正直、難解な詩で翻訳不可能なので、わかりやすい部分だけを紹介する。
My Back Page
A self-ordained by professor’s tongue
Too serious to fool Spouted out that liberty Is just equality in school ‘Equality’ I spoke the word As if a wedding vow Ah,but I was so much older then I’m younger than that now |
馬鹿みたいに、くそ真面目な
自らを教授と称する者の主張は 「自由とは、人間みんな平等」と う意味だと、学校で高らかに謳い わたしも、同じように、その言葉を まるで結婚式の誓いのように語った あの頃、私はなんと年老いていたのだろう 今は、あの頃より、ずっとずっと若い |
ほんの一部の紹介だが、ディランの言いたいことは分かる。私の高校時代や大学時代には、頭でっかちで偏った思想の教授や先生たちが多くいた。またマルクス主義かぶれの先生や学生たちが多くいて、過激な学生運動に参加する者もいた。わたしは、マルクスのいう弁証法や階級闘争や共産主義などという思想は全く肌に合わなかった。
そこには、自由も愛もユーモアもない。いかにその思想が愚かなものであったかは、過激な学生運動家たち、日本赤軍の浅間山荘事件という悲劇的な結末を見れば分かる。かれらは仲間や同胞を大した理由もなく、平気で粛正(殺す)できる。そんな人の命を虫けらのように扱える残虐な暴力性を、マルクス思想は孕んでいるということである。
きっと、ディランも学生活動家に対して、よく似た感想を持ったのだろう。
「My Back Page」は、奥田民生と真心ブラザーズの日本語と英語交じりのカバー曲がある。また、この歌はディラン30周年記念コンサートで、ボブ・ディラン、ロジャー・マッギン、エリック・クラプトン、ニール・ヤング、トム・ペティ ジョージ・ハリスンら6人の豪華メンバーで競演しているが、それぞれ個性的な声と歌唱力に圧倒される。
「アナザーサイド」には「ラモーナに」というラブソングがある。これはきっと、スージー・ロトロに送られた歌だと思われる。彼女は、かなり熱心な社会運動の活動家だったと推察される。実は、この歌に、ディランのメッセージが隠されている。
2 To Ramona(ラモーナに)
マッスンの意訳で一部紹介する。
Your cracked country lips
I still wish to kiss As to be under the strength of your skin Your magnetic movements Still capture the minutes I’m in But it grieves my heart, love To see you tryin’ to be a part of A world that just don’t exist It’s all just a dream, babe A vacuum, a scheme, babe That sucks you into feelin’ like this |
きみのひびわれた素朴なくちびる
いまでもキスしたいよ きみの肌のぬくもりにずっと触れていたいから きみの動作が磁石みたいに ぼくをとらえて離さない ぼくの心がいたむのは、ねえ、 きみがいっしょうけんめいもともと存在しない 世界の一部になろうとしているからさ それは夢なんだよ、ベーブ 空っぽさ、からくりさ、ベーブ それがこのような感じにきみを取りこんでいるのさ |
ディランは、それは、夢、空っぽ、からくり、なんだと、硬直した思想にかぶれるラモーナに警告している。ディランは、ラモーナに語りかけながら、同時に、「俺はいつまでもプロテストソングを歌っていられない、新しい道を歩むよ」と宣言しているように思える。