スピッツの魅力 ① 永遠のテーマ・生と死と愛を追い続ける

ポップやロックも、新しいミュージシャンがどんどん登場してくるので、流行の音楽についていくのは難しい。そんな中で、安心して聴いていられるのがスピッツである(もっとも私には若いバンドだが、かれらももう50歳になるという)。

まず、何といっても曲想が明るく、メリハリが効いていて、曲が適度に短い。しかし、歌詞は奥深い。草野正宗の音楽は、生(性)と死という永遠のテーマを追求し続ける。そして、彼らの音楽の原点は常にロックだ。
最初に聞いた曲は「チェリー」だったが、この歌詞はかなり衝撃的だった。とにかく、最初の一節でしびれた。

君を忘れない 曲がりくねった道を行く
「君を忘れない」の後には、普通、思い出か、何かが来るのだが、「曲がりくねった道を行く」である。このたった一行で、過去の夢のような恋愛と対照的な現在の厳しい生活が窺える。
それぞれのフレーズは脈絡がない。センテンスはバラバラなのに、イメージがどんどん膨らんでいく。

生まれたての太陽と 虹を渡る黄色い砂
何という美しいイメージの展開、二人の過去の純粋無垢な恋愛が想像できる

二度と戻れない くすぐりあって転げた日
くすぐりあって転げた日、このフレーズは普通の人には絶対浮かばない。ドロドロとした表現は一切取らないのが正宗流だ。

愛してるの響きだけで 強くなれる気がした
ささやかな喜びを つぶれるほど抱きしめて

まさに、聖書の「貧しきものは幸いである」そのままではないか。

5年ほど前、私はC型肝炎を直すため、仕事をしながら6か月の闘病生活に入った(実は3回目)。インターフェロンを打つだけでなく、劇薬に近い飲み薬と併用する治療で、体温は冷え切り、腸内菌は全滅し、50メートルも歩けず、人との会話は15分が限界で、完全な鬱状態になった。治るかどうかすらわからない治療だったが、当時はそれに賭けるしかなかった。
その頃、良く聴いたのがスピッツの「夜を駆ける」だった。この曲はシンコペーションを駆使した疾走感のある曲で、正宗さんは長いフレーズを、息もつがずに、淡々とクールに歌う。なんとなく、牢獄からの脱走をイメージさせる曲で、なぜかルーマニアの体操選手のコマネチさんの亡命のことを想起させた。曲が、さびの部分に来ると、気弱になった病人は、そのたび、むせび泣いた。

夜を駆けていく 今は撃たないで
遠くの灯りのほうへ 駆けていく

今にも滅びてしまいそうな弱々しい自分が遠くの灯りのほうまで辿り着けるのかどうか?
とにかく、そこまでは撃たないでと、祈りのような気持ちで聴いていた。
すっかり完治してから、この治療で1500人もの人が死んだということを、新聞で知った。
まさに「生と死は背中合わせ」だったのだ。
昨年、スピッツは50才を前にして、「醒めないツアー」で、全国を回った。わたしは、初めてスピッツのコンサートを生で聴いた。夏と秋で2回行ったのだが、二回とも素晴らしかった。オープニングは「みなと」だった。

きみともう一度会うために作った歌さ
今日も歌う 錆びたみなとで

予想していた声とは全く違う、男らしい声だ。おそらく、震災などで亡くなった多くの人たちや、残された人たちすべてに訴えかけるかのように歌う。
低音の野太い声、高音のハスキーな声、CDからは想像できない魅力的な声である。低音といっても、スピッツのキーは元からかかなり高いので、原曲キーで歌える人はめったにいないのだが。高音なのに、野太い。生を聴いて初めて、スピッツが本物のロックミュージシャンだったということに気づいた。

「醒めない」の一節
まだまだ醒めない アタマん中で ロック大陸の物語が
最初ガーンとなったあのメモリーに いまも温められている
さらに育てるつもり 君と育てるつもり

わたしはとっくに還暦は過ぎてはいるが、せっかく助かった命である。正宗さんに負けるわけにはいかない。この心意気で、醒めない夢をさらに、育てるつもりである。

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