スピッツの魅力 ④ 森羅万象を捉える

前回のテーマは、「生き物のリズムを捉える」だったが、実は、正宗さんは生き物以外の全ての森羅万象についても、よく観察しており、そこで発見したことを、独自の表現力で美しい曲に変えてしまう。

まず紹介したいのは「運命の人」である。

♫バスの揺れ方で人生の意味が解かった日曜日
♫でもね 君は運命の人だから 強く手を握るよ

小説も詩も書き出しの一行で勝負は決まる。「バスの揺れ方で」は、正宗さんの才能がほとばしる発句だ。
おそらく、初恋の彼女との日曜日のデート、バスでどこかに向かう途中、バスが大きく揺れたので、思わず、ぎゅっと恋人の手を握りしめた。彼女は驚いた後、笑顔を返す。そんな微笑ましいシーンが想像される。

この曲のリズムも独特で、バスが揺れながら走っていくリズムそのままである。

♫愛はコンビニでも買えるけれど もう少し探そうよ
♫変な下着に夢がはじけて たたきあって笑うよ
♫余計なことはしすぎるほどいいよ 扉開けたら

3行ともユーモアと愛に溢れている。2行目もいやらしさを感じさせず、さらっと二人の関係を暗示させる。

♫アイニージュー あえて無料のユートピアも
♫汚れた靴で通り過ぎるのさ
♫自力で見つけよう 神様

理想の桃源郷なんてないさ、ありのままの普段着で過ごしていこう
そんな中で、二人で幸せを見つけていくよ そんな意味だろうか?

「神様」がやたら多く出てくるのだが、深い意味はないと思う。福岡天神(神様)に、二人で詣でにでもいったのだろうか(笑)。

もう一曲は「渚」について語りたい。

正宗さんが大学の講義で、先生が「渚というものはない。それは陸でも海でも空でもない、それら一体のものだ」といった意味のことを言われたことに感銘して作ったらしい。そこで「渚」の意味を辞書で調べてみた。「海の砂浜から波打ち際までに至るまでの、広い砂地のこと」とある。正宗さんは、きっと、「渚は定義できないということ」に興味を持たれたのだと思う。

「渚」とは、波でもない、風でもない、砂でもない、光でもない、空気でもない、泡でもないという「実存的な意味合い」に感銘したのだと思う。

したがって、この歌は単純なロマンスを描いたものでなく、かなり哲学的な意味が込められている。つまり、生と死、地上と宇宙、海と空、無限と有限、現実と幻想、それらが混然となって波打ち際で溶け合っているということだ。

イントロから、タンタカタカタン、タンタカタカタンという南国の火踊りを思わせるリズムで、ブクブクブクブクと浮いては消える泡のようなイメージで曲は繋がっていく。
長い導入部分から、一気にサビに到達する。

♫柔らかい日々が波の音に染まる 幻よ 醒めないで

正宗さんのハスキーな高音が響き渡る。「サメーナイデ-」のメーの音が高すぎて誰も歌えない。まさに正宗の独壇場である。
そして、2番のクライマックスへ

♫柔らかい日々が波の音に染まる 幻よ 醒めないで
♫渚は二人の夢を混ぜ合わせる 揺れながら輝いて
♫輝いて・・・アーアー ・・・輝いて・・・アーアー

「醒めないで」「輝いて」の叫びの後のなんとも切ない嘆息(ためいき)が絶妙である。
もちろん、性的なエクスタシーを表しているとも取れるし、人生そのものが一瞬の幻に過ぎないとの意味にも取れる。
永遠と瞬間、夢と現実、生(性)と死、それらが混然と溶け合っている状態、それこそが「渚」の意味である。

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