スピッツの魅力 ③ 生き物のリズムをとらえる
1 生き物マニア
正宗さんの歌には夥しい種類の生き物が登場する。タイトルだけに絞っても実に多い。
「ウサギのバイク」「歌ウサギ」「海ねこ」「エスカルゴ」」「シロクマ」「鈴虫を飼う」「トビウオ」「猫になりたい」「ネズミの進化」「ハチの針」「ヒバリのこころ」「ホタル」「未来コオロギ」まあ、これぐらいにしておくが、歌詞の中でも頻繁に登場する。たとえば、「涙がキラリ」では、いきなり、
「目覚めてすぐの蝙蝠(こうもり)が・・・」
と蝙蝠まで登場する。
サザンやミスチルでは、タイトルに生き物の名前がついているのはせいぜい数曲しかないことと比較すると、少し異常とも言える。正宗さんは、小さいころから、動物図鑑、昆虫図鑑、植物図鑑、宇宙図鑑などに親しむ理科少年だったのだろう。とにかく、自然界に対する好奇心が旺盛な人だと思う。
2 生き物のリズムと心をとらえる
あるとき、スピッツの歌を聴いていて、不思議なことを発見した。それは「ホタル」を聴いているときだった。
「時を止めて 君の笑顔が 胸の砂地に 浸みこんでいくよ」
下線を引いたところが強く歌われていて、ちょうどホタルが灯りを点滅するリズムと姿が浮かんでくる。こんなところにも、スピッツの秘密が隠されているが、正宗さんは決して種明かしはしない。「ホタルが灯す儚い生命」と「人生や恋の儚さ」をかけて、「それは鮮やかで短い幻」と歌う。
「紙のような翼ではばたき どこか遠いところまで」という表現も、あのホタルの四角い羽根を連想させ、本当に昆虫をよく観察していると思う。
「猫になりたい」のリズムもそうだ。
「灯りを消したまま話を続けたら ガラスの向こう側で星がひとつ消えた」
まさに猫が爪で引っ掻くリズムではないか?ずっと聞いていると、自分が猫になったような気分になる。だけど、この猫は嫉妬深い。
「猫になりたい 言葉は はかない 消えないように キズつけてあげるよ」
言葉だけじゃ足りない、だから愛の証を爪痕で残す、ちょっと怖いオチである。
「ヒバリのこころ」は初期の作品で、ヒバリの鳴き方とその明るい性格を見事に表現している。これくらいまっすぐで、これから訪れる春を称えた歌はないだろう。
「僕らこれから強く生きていこう 行く手を阻む壁がいくつあっても
両手でしっかり君を抱き締めたい 涙がこぼれそうさ
ヒバリのこころ OH HO・・・OH HO.・・・OH HO・・・・・・・」
最後のオーホーがやたら長くて力強い。スピッツはアンコールでよくこの歌を歌う。「初心、忘れるべからず」といったところか。本当に元気づけられる曲だ。
次回は、「自然観察とスピッツ」という課題で、その魅力に迫ってみたい。