米津玄師(よねづ けんし)の世界① Lemon

1 不思議な魅力の曲

わたしはテレビドラマのことは知らず、ネットでこの歌を知った。米津さんの曲はアクセス数が異常に高い。アイネクライネで1億3千万回、打ち上げ花火で1億回、このLemonも3月発売なのに、すでに6千万回を超えている。人気の高さと裾野の広さが窺える。

さて、この歌に引き込まれたのは、やはり、最初の2節である。

♪夢ならば どれほど よかったでしょう
♪未だに あなたのことを 夢にみる

二度、夢が出てくる。一度目は夢であることを願い、二度目は諦められず夢に出てくる。
二節目は、不協和音を奏でている。宙ぶらりんで不安定で切ない旋律である。途中、やや甲高い掛け声なども入っており、思わず引き込まれてしまう。不思議な魅力の曲である。

♪胸に残り離れない 苦いレモンの匂い
♪雨が降りやむまでは帰れない
♪今でもあなたはわたしの光

亡くなった人を思い出すのにレモンの匂いを持ってくる。姿も声もなくても、その人の匂いなら鮮烈に覚えている。
イの韻を踏みながら、苦いレモンのニオイのニが良く効いている。

雨が降りやむまでは帰れない。この一節も絶妙である。作者は、突然の死を受け入れられず、泣きぬれ、泣き明かす。しかし、雨は止みそうにない。

2 レモンと言えばレモン哀歌

わたしのような世代では、この歌からすぐに「智恵子抄」(高村光太郎作)のレモン哀歌を思い出す。少しだけ紹介しよう。

レモン哀歌
そんなにもあなたはレモンを待っていた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパーズ色の香気が立つ
以下省略

死の床で匂いたつレモンは、この詩では、健康的なイメージでとらえられている。智恵子は死に至る病を患っているが、死の直前に、レモンをがりりと噛むことによって、一瞬、正気を取り戻す。レモンの香りは智恵子そのものである。

米津さんのレモンは苦い、そして、恋人の分身でもある。切り分けた果実の片方は主人公に何かを語りかけているようだ。

3 不条理な死

Lemonでは、後半になって、恋人の死が通常の死ではないことが明らかになる。

♪何をしていたの 何を見ていたの
♪わたしの知らない横顔で

わたしが見ていないところで、何かが起こった。そう、恋人は事故か災難にあったのか?いや実は殺されたのだ。ここの歌詞は謎解きのスリルに満ちている。

♪どこかであなたが今 わたしと同じ様な
♪涙にくれ 淋しさの中にいるなら
♪わたしのことなどどうか 忘れてください

わたしと同じ様な苦しみは味わいさせたくない。だからわたしのことはどうか忘れてください。なんとも切ない詩である。そして、「いまでもあなたはわたしの光」と謳う。
Lemonは、米津玄師さんの心の優しさと深さが溢れる一曲である。

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