日本史のミステリー⑤ 捏造の明治維新 1 坂本龍馬

1 司馬遼史観の功罪

司馬遼太郎(以下司馬遼と呼ばせていただく)の小説はとにかく面白い。たとえば、「竜馬がゆく」に感化された団塊の世代は非常に多いだろう。その小説を読めば、坂本龍馬という英雄の活躍がなければ、明治維新はなかったとさえ思われる。司馬遼が愛する幕末の英雄は3人いる。吉田松陰坂本龍馬勝海舟である。司馬遼が嫌う英雄は乃木希典大将である。乃木希典は明治天皇が崩御された後、夫婦で殉死されたが、そのことに対しても極めて批判的である。小説「坂の上の雲」では、児玉源太郎を英雄として扱い、乃木希典は軍事的手腕のない「愚将」として描いている。司馬遼の評価はかなり偏っており、好き嫌いの激しい人だと思う。乃木大将については、わたしもよく調べて、いつか名誉挽回をしてあげたいと思っている。
さて、小説は面白いほどいいわけだが、だからといって、さもそれが、日本史の厳然たる事実のように独り歩きし、日本人の心を支配してしまうのは、いかがなものだろうか?

日本史のミステリー①」で、歴史は、後の支配者によって、捏造されると書いた。そして、「歴史の捏造」のお手伝いは、お抱え御用作家のペンによって行われる。司馬遼が御用作家とまではいわないが、彼の歴史観は極端で、たとえば、明治維新が光明なら昭和は暗黒と捉える。光と影ならまだいいのだが、昭和の戦争の時代は取り扱うこともない。確かに敗戦の心の傷の深さと痛みは、戦争経験のないわたしには分からない。しかし、だからといって同じ日本人が作った歴史に目をつむっていいものではないだろう。なぜなら、日本人の民族と心は連綿と続いているはずで、影の中にも光を見出すのが作家の役目ではないのか?

2 坂本龍馬の場合

「竜馬がゆく」に描かれた坂本龍馬はまったくの作り話、嘘である。龍馬の「龍」を「竜」と変えることで、司馬遼はフィクションであることを暗にほのめかしているのだが。
司馬遼の坂本龍馬像は数冊の本を読めば、見事に崩れ去る。これらの書籍と内容を簡単に紹介したい。

  1. 「坂本龍馬はいなかった」細田マサシ著 平成24年9月19日 彩図社

あまりの衝撃的なタイトルに驚いたが、あの英雄の龍馬はいなかったという意味である。ただ、面白いのは龍馬が元々土佐藩のスパイであり、しかも龍馬は3人いたとする説で、かれらの最後は、一人目は九州で数学の教師となり、二人目は切腹、3人目は暗殺となっている。

そもそも、龍馬が人々の口に上るのは死後30年以上経ってからであり、西郷や大久保のように生前から名前が通っていたのではない。情報の発生源にいる人物はたったの二人だという。一人は田中光顕、もう一人は坂崎紫蘭である。司馬遼はとくに坂崎紫蘭が書いた「汗血千里駒」という小説を下敷きにしている。二人とも土佐藩の人で、田中光顕はとくに怪しい人物で、陸援隊の副長(隊長はもちろん中岡慎太郎)であった。この人物の謎解きの方が龍馬よりはるかに面白い。

A 暗殺時、龍馬が中岡慎太郎と同じ場所にいたという嘘
B 龍馬が薩長同盟を実現させたという嘘、
C 勝海舟関連の嘘
D 龍馬の手紙の嘘
E お龍(りょう)とのハネムーンの嘘

など、次から次へと嘘が明らかになる。極めて興味深く一読に値する本だと思う。

  1. 「明治維新の正体」鈴木荘一著 (株)毎日ワンズ 2017年11月3日

明治維新を薩長の立場から書くのではなく、幕府側とくに徳川慶喜の立場や、欧州列国(イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、ロシア)の野望や力関係などもよく説明している。
龍馬の謎はすらすら解ける。一言でいうと、龍馬はイギリス(スコットランド出身)の武器商人トーマス・グラバーの手先に過ぎなかったということである。長州はとくに過激な討幕派なので、幕府から睨まれていた。そんな中、長州藩が武器を調達することは非常に危険であったので、どこの藩にも属さない風来坊の龍馬を手先として、グラバーは使ったということである。
グラバーは薩摩経由で小銃、弾丸、火薬、ライフルなどを長州に売りさばいていた。とくに、南北戦争で余った高性能な中古小銃を、上海を拠点に密輸を行っていた。
要するに、グラバーは薩長に肩入れすることにより、薩長と幕府との間で内戦を起こさせ、武器を売りさばきしこたま儲けようとしていたわけである。

明治維新もトマス・グラバー抜きではうまく説明できないということになる。

・・・・・・・・・・・つづく

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