藤井聡太ついに史上最年少タイトル保持者となる(令和2年7月17日)。

1 大阪福島将棋会館の周りは大勢の人でごった返す。

ついに、藤井聡太7段が、渡辺明棋聖を3勝1敗で下し、待望の「棋聖位」タイトルを勝ち取った。藤井聡太7段の17歳と11か月で初タイトル奪取は、屋敷九段の18歳6か月の史上最年少記録を30年ぶりに塗り替えた。コロナ禍で各棋戦の予定が大きくずれ込んだにもかかわらず、この偉業を達成したのはすごいことだ。大阪福島の将棋会館の周り(私の事務所のすぐそば)では、藤井新棋聖の顔を一目見ようとたくさんの人でごった返した。

渡辺明2冠は、豊島名人と並んで、今将棋界では最も強い棋士である。A級順位戦でも10連勝と断トツで優勝し、現在、豊島将之名人と名人戦を争っている。渡辺明氏は過去竜王戦で羽生さんに3連敗してから4連勝して竜王位を防衛した実力の持ち主である。だから、棋聖戦の5番勝負は最終戦までもつれ込むのではないかと予想していたが、2連勝から1敗は喫したものの、4局目を見事に制した。

2 藤井聡太棋聖はどこがすごいのか?

棋聖戦全4局はずっと観戦していた。レベルが高すぎて、アマ5段のわたしが理解できないところもあるが、「渡辺明ブログ」やプロの解説などを参考にさせていただきながら、

その核心に迫ってみたいと。

さて、渡辺明2冠は自己の「渡辺ブログ」7月17日でこう語っている。

「第1局は先手1三角成から一気にスピードアップで「え、これで寄ってるの」と思ってる間に負け

第2局は後手3一銀で手がありません

第4局は中盤でピタッと追走されて、後手8六桂で抜き去られる。

負け方がどれも想像を超えているので、もうなんだろうね、という感じです。」

文字通り、渡辺二冠も脱帽の負け方である。

特にわたしが印象に残った手は第2局の矢倉模様から渡辺二冠が仕掛けた後に、5四金と守備の金を桂馬取りに上がった力強い手と、桂得した後に、渋く自陣に受けた3一銀だった。派手な一手と地味な一手の緩急の間合いが印象的だった。とくに、3一銀はAIの評価では候補手には上がらず、AIの読みを先に深めると最善手になったというから、藤井7段の大局観には恐れ入る。

第4局では桂馬で当たっていた金を2五金、2六金、3六金、4七金、4八金と捌き先手王に迫った。こんな金の跳躍は珍しいと思う。

先手が飛車取りに角を成った一瞬を捉えて、露骨な飛車取りに3八銀と打ち、先手が飛車をかわした後に、ぼんやりとした8六桂打ちで王の逃げ道がなくなってしまう。渡辺2冠の読みには、このぼんやりした8六桂は抜けていた。先手はこの詰めをなかなか解けない。やはりこの将棋でも、激しい手と渋い手の緩急の間合いが素晴らしい。

3 藤井新棋聖の際立った強さを5つ

1. 読みの範囲が広く深い

誰もが思いつかない手(意外性に富んだ手)ときにはAIも思いつかない手まで読みの範囲に入っている。

c不利な時にピッタリ付いていく

局面が不利な時でも諦めず、相手に決め手を与えずについていくので、相手は間違えられない。木村王位との第2局はずっと木村王位が優勢でAIの評価値は木村20藤井80くらいまで引き離されたが、木村王位の終盤の寄せが少し緩んだところから、勝負手を放ち一気に逆転した。

3. 有利になってからは指し手が辛い

一旦、優勢に立つと決して勝ちを急がない。辛く固く指す。

4. 終盤の読みは日本一

詰将棋の解答能力は詰将棋選手権で5年連続のチャンピオンであるから、誰も勝てないだろう。もちろん、詰将棋と実戦は少し違うだろうが、藤井棋聖は終盤にその力を十分反映している。

5. 常に謙虚であること

藤井棋聖は勝った時も常に謙虚である。この度も勝利インタビューで揮毫を求められたら「探求」と書かれた。大事なのは記録ではなく、自分が成長することだという。

このまま、どこまで成長するのだろう。楽しみでもあり、末恐ろしい気もする。