藤井聡太4段29連勝、恐るべき胆力

2017年6月26日、ついに藤井聡太4段は、プロデビューから、公式戦29連勝を達成し、30年振りに神谷広志八段の連勝記録を更新した。プロ棋士になっての初対局からの29連勝は、おそらく今後も破られることはないだろう。

昨日、わたしは、夕方からニコニコ動画に貼り付けになっていた。というのも、対戦相手の増田康弘4段は、もう一人の10代棋士(19歳)で、小学生名人を取った超天才棋士である。そして、勝率は7割を越し、すでに新人王戦で優勝している。まさに、宿命のライバルとも言える好敵手だからである。

このたび、その天才増田康弘4段が、意地を見せた発言があった。

「プロの将棋界はそんな甘い所ではないというところを見せたい」「一手も間違うことはできない。完璧な将棋を指す」と。

また、もう一つ挑発的な発言があった。それは、藤井4段が詰将棋を得意としているが、(実は詰将棋解答選手権を3年連続制覇している)、詰将棋についてどう思うかの質問に対して、「詰将棋は、あまり意味がない」と。おそらく、詰将棋はパズル(奇抜な手が多い)だから、やりすぎると実戦感覚から遠ざかるという意味であろう。いずれにしても、藤井4段とは全く異なる道を行く棋士である。当然、これくらいの意地と自信がなくては、一流勝負師として大成はしない。

さて、実戦だが、後手の増田4段は、最近流行りの雁木戦法を取った。この戦法は受けに強い陣形だが、藤井4段は、相手の陣形が好形になる直前に仕掛けた。これに対して、増田4段は的確な応酬で、中盤の入り口あたりではかなり優位に立ち、AIの評価値は一時、マイナス500点くらいとなり、増田4段有利に展開していた。藤井4段の銀が遠くまで遠征し、やや、立往生している風に見えた。増田4段は角を切り、取った金で飛車を捕獲した。この時点で増田4段はかなり有利に局面を進めていた。

しかし、藤井4段はしぶとかった。そこから、形勢を突き離されることなく、じわじわと持ち直していく。そして、中盤、二枚角と二枚桂を巧みに使う。

中央に見下ろすように打たれた角と、立ち往生した銀を桂馬と刺し違えたあと、端に打った角が見事だった。そして、もぎ取った桂馬を敵陣に生(なま)で打った。この辺りから、AI評価値は藤井4段有利に転じ出した。ここから、増田4段は必死で受け止めようとするが、藤井4段は際どい手を連発し、局面は 、増々、複雑難解になり、藤井4段の攻めを解くのが難しくなっていった。

増田4段を投了させた最後の決め手の自陣飛車は、コンピュータ(AI)では、最善手でも次善種でもなかった。ただ単に敵の角の効きを止めるだけの手ではなく、角を責め、自陣の受けになり、かつ、金を奪って詰めるという一石三鳥の好手であった。おそらくそれは一番厳しい決め手だと思われる。終盤、藤井4段が離席して、戻ってきたとき、なんと、かれは相手の盤側に立って、盤面を見下ろしているではないか。これは「ひふみん」(加藤一二三九段)得意のパフォーマンスで、対局相手には少し失礼な行動かもしれない。藤井4段はこれを無意識でしたのか、意識的にしたのか謎である。ただ、「ひふみん」はさぞかし喜んだと思われるが・・・・。

このたび、藤井4段を凄いと感じたのは、その胆力である。①3三銀成り(駒損)からの1五角のスケールの大きな手、②トリッキーに見える5三桂打ち、③決め手の自陣飛車3八飛車など、際どい手に、大胆に踏み込んでいく度胸。そして、激戦の中、「ひふみん」を真似るお茶目なところなど、並の心臓ではない。

その恐るべき胆力に、驚嘆する。

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