「わたしを離さないで」の原作者ノーベル賞、受賞
1 ドラマ「わたしを離さないで」を観る
「わたしを離さないで」(Never Let Me Go)の原作者;カズオ・イシグロ(日本生まれのイギリス人)がノーベル文学賞を受賞した。
実は、「わたしを離さないで」はドラマ化され、2016年1月TBSで放送されていた。
わたしは、たまたまこのドラマを全編通して観ていた。というのも、水川あさみという女優のファン(ドラマ、「ゴーストライター」で中谷美紀と共演した時からのファン)だったからだった。
2 物語のあらすじ
主人公たちは、「自己の臓器を人類に提供するためにのみ造られたクローン人間」である。かれらは、小さい時からそのための教育を受ける。ドラマは陽光学苑という施設の中での子供たちの生活から描かれる。キャストは、主役の恭子に綾瀬はるか(子役は鈴木梨央)、友彦に三浦春馬(子役に中川翼)、美和に水川あさみ(子役に瑞城さくら)である。学苑内でいろんな事件が起こり、またイベントが行われる。それらはすべて謎に満ちているのだが、高学年になるにつれ、自分たちは「提供という使命を持った天使」だと教育されながら、成長していく。
物語は、恭子と友彦と美和の三角関係を中心に展開していく。恭子は理知的で穏やか、友彦は癇癪持ちでいじめられっ子、美和は支配欲が強く嫉妬深い性格で描かれる。
美和は恭子に好意を持ちながらも、恭子の人生を狂わせるような意地悪を重ねる。美和は、もともと好き同士だった恭子と友彦の仲を引き裂き、友彦を奪う。
学苑卒業後、かれらは再開する。恭子は優秀な介護人となり、美和と友彦を介護することになる。臓器提供は2回か3回でほとんど終わりとなるが、その間、彼らをメインテナンスする介護人が必要となる。結局、かれらは「提供者」か「介護人」にしかなれない。もちろん、介護人もいずれは提供者になる宿命である。
しかし、彼らの間で一つの寓話が流行り出す。それは「猶予」というもので、真に愛し合っているカップルには、それを証明すれば、「猶予」が与えられ、「提供」の時期が数年延ばされるというものである。
そのような寓話が学苑内で生まれるには理由があった。学苑内のイベントとして開催される芸術品展示会で、子供たちの作った絵やデザインや彫刻やオブジェの中から優秀な作品を謎の「マダム」が買い取っていく。芸術品は作者の魂を表すものとして、非常に大事にされたのである。この謎の「マダム」が、提供の「猶予」を与える権限を持っているという寓話(神話)がうわさされていた。
ドラマのクライマックスは美和の恭子への告白である。「わたしが犯した最大の罪は真実愛し合っていた恭子と友彦の仲をわたしが裂いたこと。」そして、マダムの住所を突き止めたから、「今からでも遅くないから、マダムにあって「猶予」を懇願して」と。美和は最後の「提供」を行うべく、手術台に乗せられて運ばれていく。美和は介護人の恭子の手を握りしめ、「わたしを離さないで」と叫ぶ。水川あさみの迫真の演技にしびれた。やはり、この人は女の情念(嫉妬、支配欲、愛情)を演じさせたらぴか一だ。
恭子と友彦はマダムに合うが、そこですべての謎が明かされる。そして、「猶予」は寓話に過ぎなかったことを知らされる。友彦は得意の癇癪を爆発させて、叫ぶがやがて自分の運命を悟る。
3 原作者の言いたかったこと(テーマ)
原作は、主人公キャシーの追憶回想という形で語られるが、テレビドラマほど三角関係の描写はリアルではない。ドラマは10回ものなので、種々のアレンジが加えられているが、それはそれで独自の作品として面白く、毎回、テレビに釘付けにされた。
ただ、視聴率はあまり伸びなかったらしい。やはり、臓器提供のクローン人間という設定が暗くて、やわな日本人には受け入れられなかったのかもしれない。
作者は「死」というテーマを、「提供」と「猶予」という譬えで、私たちの目の前に突き付けた。所詮、私たちは、いつ刑が執行されるか分からないだけの「死刑囚」に過ぎない。最近、わたしは、少し重い病気の治療を行ったが、どうにか無事生還した。また、ここ10年くらいで何人か親しい友人が亡くなった。そんな中、わたしに残された「猶予」は、どれくらいあるのだろうと考えてしまうこの頃である。
追記① ドラマ「わたしを離さないで」は6/14,6/15さらにもう一回再放送されるようです。
追記② ドラマの主題歌「Never Let Me Go」はなんとも切ない名曲です。