糖尿病について ②人類の進化と食生活の変遷
① 人類の進化過程と食生活の変遷
人類は約250万年前に氷河期を向かえ、森林が少なくなり、草原で暮らす草食動物や肉食動物を捕獲して食べる狩猟民族に変わっていった。この頃の人類の摂取する栄養素は、低糖質、高たんぱく質となり、糖質は一日10g~115g程度で足りたらしい。
約1万年前、ヨーロッパでは農耕が発達し、さらに3千年前には日本にも弥生式文化として農耕が始まり、人類は農耕民族となっていった。その過程において、人類はインスリンの分泌を増やし、余分な糖を筋肉に貯蔵できるように進化した。ヨーロッパ人より日本人は7千年ほど農耕民族になる時期が遅かったので、インスリンの分泌や働きがヨ人より半分くらい悪い。ヨーロッパ人は余分な糖を肥満という形で貯蔵するので、肥満にはなっても、いきなり糖尿病にはならないらしい。
ちなみに、エスキモー人はいまだに狩猟民族のままで、肉以外は食べないが健康である。そして、糖尿病とは無縁の民族である。
② 200年前から現代まで(直近50年は人類の危機)
産業革命以降、農耕技術が発達し、穀物を保管するため精製技術が発達した。コメでいえば白米(白いご飯)、麦も同じで精製後小麦粉として保管されパンになる。さらに50年位前から、砂糖中心のスイーツや飲料水(たとえばコカ・コーラ)が多く発売される。
繊維を多く含んだ穀物(たとえば玄米)であれば消化に時間がかかるため、インスリン分泌はゆっくりでいいのだが、現在の炭水化物食品は身体に入れば即、糖になるので、インスリンを早くかつ多量に分泌しなければならなくなる。
さらに、大きな要因がもう一つある。それは、交通手段の発達や自家用車の普及率の増大により、恒常的運動不足による筋肉の低下が起こり、本来、筋肉に脂肪として貯蔵するインスリンの能力が減退した。
とくに、直近50年は過剰な糖分の摂取と、筋肉減退により、処理できない糖分が日本人の身体に溜まってきている。こんな短期間(50年ほど)で、人類は進化することはできない。いいかえると、糖質または炭水化物の暴力の時代に突入し、すい臓は悲鳴をあげている状態である。
人類の進化と食生活の変遷を分析すれば、糖尿病対策の答えは自ずと明らかになる。
③「カロリー制限」から「糖質制限」へ
日本糖尿病学会の基本的な考え方は、糖尿病が生じる原因(悪者)はカロリーの取り過ぎと運動不足にあるとし、その中でも特に脂質(油を多く含む肉類など)を悪者扱いしている。そして、糖尿病の患者には、できるだけカロリーを抑え、バランスよく炭水化物、脂質、たんぱく質を取ることを勧める。炭水化物の占める割合は、全体のおよそ60%くらいとしている。
この伝統的な考え方に対して、10年位前から提唱され出したのが、「糖質制限」の考え方である。これは糖尿病の原因となる血糖値を上げる直接の原因(悪者)は糖質だから、とにかく、食事から糖質をできるだけ排除するというものである。ここでいう糖質とは、甘いスイーツやジュースや砂糖だけを指すのではない。炭水化物も胃袋へ入ると、即、糖に変わるので、ご飯、パン、うどん、そば、ラーメン、パスタ、ピザ、などの主食のほとんどがこれに当たる。
どちらの考え方が正しいか、答えはすでに明らかであろう。アメリカでは糖質制限の考え方が主流になりつつある。驚くなかれ、イギリスやアメリカ、カリフォルニア州バークレー市では、砂糖の含まれる飲料水に対して税金をかけ出したそうである。もはや、砂糖はたばこと同じく犯罪者扱いである。
しかし、日本糖尿病学会はかたくなにカロリー制限を推奨する。そして、「極端な糖質制限
限はよくない」と、従来の考え方は変えておらず、食事は「ご飯を主食としてカロリー(栄養)のバランスよく」の基本は崩していない。わたしも入院中、三食とも白いご飯てんこ盛り(150g)には恐れ入った。繰り返すがカロリーは関係ない。悪いのは糖質(=炭水化物)なのである。こんなことを続けていたのでは永遠に糖尿病患者は減らないであろう。
④ 食卓革命
もし「糖質制限」を実行するとなると、主食が食べられないわけだから、「食卓革命」と言えるくらい食事メニューが変質する。つまり、食卓は、「おかずをちょっとにご飯しっかり」という伝統的メニューから、「肉、魚、野菜、豆」を中心とした新メニューに変わる。そして、ご飯中心の伝統的メニューから比べると、新メニューは高くつく。それに、肉も魚も野菜も普通に高いだけではなく、脂の少ない良質肉とか、無農薬野菜となると、ますます食材費は嵩むことになる。
さらに、食費は嵩む上に、根性もいる。おいしい料理の殆どは糖質を多く含むからだ。この誘惑に打ち勝つのは本当に大変だ。
しかし、最近考え方を変えた。世の中にアレルギー患者が多くいる。たとえば、アルコールアレルギー、蕎麦アレルギー、蟹アレルギー、小麦アレルギーなどいろいろあるが、極端な人はそれが原因で死んだりもするのだ。だれも死ぬと分かっていて、アルコールアレルギーの人が酒を飲まないだろう。それと同じである。糖尿病患者は糖質アレルギーと思えばよい。糖質を取ってもすぐに命は取られないが、将来、確実に死に至るダメージが血管に起こるということだ。
そして、何を食べれば血糖値が上がるのかを自分でよく調べる必要がある。食後2時間後の血糖値を定期的に計っていれば非常に役に立つ。とにかく、まず、炭水化物をできる限り取らないことである。
糖質なしでも、エスキモー人は健康で死なないのだから。